何かとストレスが多い歯科衛生士のお仕事。しんどいことが続くと「辞めたいなぁ」と思ってしまうこともありますよね。
でも、せっかく資格を取ったのだから、勢いで辞めて後悔はしたくないものです。そこでこの記事では、歯科衛生士を辞めたいと思う主な理由や、辞める前に考えたい別の選択肢などについて解説します!

d latte編集部 あやか
歯科衛生士歴6年。大学病院の歯周病科で専門性を磨いた後、現在は歯周病治療に特化したクリニックで勤務。歯周病予防の啓発活動にも積極的に参加し、地域の健康教室での講演経験も豊富。エビデンスに基づいた最新の治療法や予防法について、分かりやすく情報発信することを大切にしている。
歯科衛生士を辞めたいと思った人は約20%!

違う職業に転職したいと考えたことはある? | |
考えたことがある | 14.9% |
現在考えている | 5.5% |
参考:日本歯科衛生士会「令和7年歯科衛生士の勤務実態調査報告書」
日本歯科衛生士会が令和7年に公表した「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」によると、転職や勤務先の変更を考えたことがある人の中で、「歯科衛生士以外の職業に転職したいと考えた人」の割合は、約20%を占めるとされています。
また、そのうちの5.5%は「現在考えている」と答えており、少ない割合ではあるものの、歯科衛生士を辞めようと思っている人が一定数いることが分かります。

約20%の歯科衛生士が転職を考えた経験があるという事実は、決して珍しいことではありませんね。同じ想いを抱いた仲間がいることを知ると、少し気持ちが楽になるのではないでしょうか。
【歯科衛生士を辞めたいと思う理由】よくある8つ!

歯科衛生士の退職理由としてよくあるのは、上記のような理由です。勤務先に対する不満やプライベートな事情など、「辞めたい!」と思うきっかけはいろいろあり、いくつかの理由が重なる場合もあります。一つ一つを詳しく見ていきましょう。
1. 院長と合わないなどの職場の人間関係
どの職業でも、人間関係の悩みは必ずと言っていいほどあるもの。歯科衛生士の場合も同様で、人間関係を理由に仕事を辞めたいと思う人は少なくありません。
特に歯科衛生士の勤務先で最も多い「歯科医院」は、小規模経営のところが多く、限られたメンバーで仕事を分担するのが一般的です。そのため、職場に苦手な人がいると、大きなストレスを感じてしまいます。

小規模な歯科医院だからこそ、人間関係の悩みが大きく感じられることがありますね。限られたメンバーで働く環境では、一人ひとりとの関係性が日々の働きやすさに直結してしまうものですね。
歯科衛生士の転職・退職理由で多いのは、院長との人間関係です。院長と歯科衛生士は連携して仕事を行うことが多いため、院長の人柄や仕事のやり方などは、歯科衛生士のモチベーションに大きく影響します。
また、先輩・同期・後輩との関係が原因で「辞めたい」と思ったり、実際に退職してしまう人も一定数います。
2. 体力や健康の問題
歯科衛生士は体力を必要とする職業で、若い人でも辛く感じることは珍しくありません。ましてや年齢と共に気力・体力が追いつかなくなるのは当然のことで、定年退職を待たずに辞めてしまう人もいます。
また、職場のストレスが原因で、心身のバランスを崩してしまうケースもあります。眠れない・食欲がない・何をしていても楽しくないなど、心や体に異変を感じている場合は注意が必要です。
しかし、歯科医院によっては短時間勤務に移行できる場合もあります。「体が辛いから仕事を辞めたい」という理由であれば、まずは院長に相談してみるとよいでしょう。
3. 出産・育児
歯科衛生士の99%は女性というデータがあるほど、歯科衛生士業界は基本的に女性の世界です。そのため、妊娠・出産・育児などをきっかけにライフスタイルが大きく変わる人が多く、それが退職の理由になってしまいます。
特に歯科衛生士の数が少ない小規模の歯科医院は、人手が減ると経営にも大きく影響します。産休や育休を取得することは従業員の権利として認められていますが、実際には長期の休みを取ることが難しく、退職せざるを得ない歯科衛生士も多いのです。

女性が多い職場だからこそ、ライフステージの変化に対応できる環境づくりが大切ですね。理想と現実のギャップに悩んでいる歯科衛生士の方も多いのではないでしょうか。
また、産休・育休を経て復帰できたとしても、育児との両立に限界を感じる人も少なくありません。「子育てや家事が思うようにいかず、疲れが溜まって仕事も辛い」という悪循環が生まれ、退職してしまうケースもあります。
4. 土日出勤や長時間労働
歯科医院は土曜日も診療しているのが一般的で、中には日曜・祝日も診療しているところもあります。そのため、歯科衛生士も土日に出勤している人が多く、家族や友人とや休みを合わせづらいのが難点です。
また、仕事帰りの患者さんが通いやすいよう、21時頃まで診療している歯科医院もあります。患者さんにとってはありがたいことですが、その分歯科衛生士の労働時間が長くなりやすく、「土日は休みたい」「18時や19時頃に終わらせて帰りたい」といった理由で辞めてしまう人もいます。
5. 給料が安い
厚生労働省が公表した令和6年賃金構造基本統計調査によると、全国の歯科衛生士の平均月収は約29万円、そして平均ボーナス等を参考に算出した平均年収は約405万円となっています。
ちなみに、国税庁が公表した令和5年民間給与実態統計調査によると、女性の平均年収は約316万円です。つまり、国家資格である歯科衛生士の給料・収入はそれよりも約89万円高いことになりますが、実際には平均を大きく下回る収入しか得られない歯科衛生士もいます。
また、小規模の歯科医院などでは、福利厚生が充実していないという不満も見受けられます。中には、自己負担で国民年金に加入している人もおり、将来的な不安から退職してしまうケースがあるのです。
6. 自分のスキル不足
自分にスキルが足りないことを痛感し、自信をなくして「辞めたい」と思ってしまう歯科衛生士もいます。よくあるのは、患者さんからクレームを受けた時や、院長・先輩から注意された時などです。
例えば、患者さんを担当制にしていない歯科医院は、毎回担当する歯科衛生士が替わるため、他の人とレベルを比べられてしまいます。担当した患者さんから「次回は別の人にお願いしたい」と言われてしまった時などは、誰でも落ち込んで当然です。
しかし、スキル不足は地道に練習したり、回数をこなしたりすることで十分カバーできます。仕事自体が嫌になったわけではないなら、辞める以外の選択肢が必ずあるはずです。

患者様から指名を変えられた時のショックは、本当に辛いものですね。でも、そんな経験も含めて成長していけるのが歯科衛生士の魅力。今の悩みがきっと未来の自信に変わっていくはずです。
7. 違法行為を強要される
歯科衛生士が職場で歯科医師にしか許可されていない医療行為を求められることがあります。これは歯科衛生士法に違反する越権行為にあたり、法的責任を問われるリスクがあります。
そのような違法行為を強要される環境では、専門職としての倫理観と法的な安全性への不安から、転職を考える歯科衛生士が少なくありません。
8. 違う仕事をしたい
歯科衛生士を辞めた人の中には、「歯科衛生士として働くうちに、違う仕事に興味が湧いた」という人もいます。このようなタイプの人は、大まかに「歯科関連業界に転職した人」と「全く異なる業種に転職した人」の2種類に分かれます。

歯科衛生士として働く中で新しい興味や可能性を見つけるのは、素敵な発見ですね。専門知識を活かしながら違う道に進むか、全く新しい分野に挑戦するか、どちらも魅力的な選択肢です。
例えば、歯科医院の受付の業務の方が向いていると思った場合は、医療事務や一般企業の事務などに転職するという選択肢があります。また、後輩の指導にやりがいを感じるなら、歯科衛生士の養成機関に転職する、歯科医院の経営に興味が湧いたら、コンサルタントを目指すなど、選べる道は様々です。
歯科関連業界に転職した場合は、引き続き歯科衛生士として活躍できるチャンスに恵まれます。勤務先の選択肢が歯科医院以外にもあるのは、歯科衛生士ならではの大きなメリットです。


歯科衛生士を辞める前に考えたい【後悔しないための選択肢】

歯科衛生士を辞めたいと思っても、資格を取るために費やした時間や費用がムダになってしまうのはもったいないですよね。そこでまずは、歯科衛生士を辞める前にできることがあるか、じっくり考えてみましょう。ここでは、いくつかの選択肢についてご紹介します。
1. 先輩や友人に相談する
仕事で壁にぶつかった時は、先輩や同僚の歯科衛生士、養成学校の同級生などに話を聞いてもらうとよいでしょう。「私も同じことで悩んだ経験があるよ!」と言ってもらえるだけでも、気持ちが軽くなるはずです。
また、歯科衛生士は転職率が高い職業なので、転職を経験した人が身近にいる可能性があります。転職のメリットはもちろん、デメリットについても教えてもらうと、今後転職活動を始める場合にとても参考になります。

同じ道を歩んできた先輩や友人だからこそ、リアルな体験談を聞かせてもらえますね。「私だけじゃなかった」という安心感と、具体的なアドバイスが心の支えになってくれそうです。
2. スキルを磨く
スキル不足が原因で歯科衛生士としての自信を失ってしまったのであれば、足りないスキルを磨くことでモチベーションを十分取り戻せる可能性があります。
おすすめは現役歯科衛生士を対象とした研修や講座です。講座の種類は非常に多く、基本のおさらいから新しい技術の習得まで、いろいろな授業を受講できます。
また、患者さんとの接し方で悩んでいる場合は、コミュニケーション力を磨くのもよいでしょう。接遇マナーや歯科カウンセリングなど、患者さんと良い関係を築くスキルを学べる講座もいろいろあります。
3. 資格を取る
認定歯科衛生士・インプラント専門歯科衛生士・ホワイトニングコーディネーターなど、歯科衛生士の仕事に活かせる資格はたくさんあります。歯科衛生士とのダブルライセンスは大きな強みになり、現場で即戦力として活躍できます。
資格の取得には費用も時間もかかるため、ある程度目標を定めてチャレンジするのがおすすめです。歯科衛生士以外の仕事に興味がある場合は、転職も視野に入れて取得を目指すとよいでしょう。

新しい資格取得は、今の仕事に新鮮な刺激を与えてくれますね。専門性を高めることで自信もつきますし、将来の選択肢も広がりそうです。時間と費用はかかっても、きっと価値のある投資になるでしょう。
4. 他の歯科医院に転職する
職場の人間関係や労働条件など、今の勤務先に不満があって歯科衛生士を辞めたいと思っているなら、勤務先を変えることで解決できる可能性が高いと言えます。
日本歯科衛生士会の勤務実態調査によると、歯科衛生士で転職を経験したことがある人は約8割にも及ぶとされています。歯科医院は常に人手不足に悩まされており、労働環境を整えて長く働いてもらおうと努力しているところも多くあります。
自分にとって働きやすい職場が見つかれば、「辞めなくてよかった」と思える日が来るかもしれません。まずは転職してみて、自分の気持ちに変化があるか、様子を見るのもよいでしょう。
参考:日本歯科衛生士会「令和7年歯科衛生士の勤務実態調査報告書」
5. 歯科関連の職場に転職する
歯科衛生士が活躍できる場は、歯科医院だけではありません。大学病院・介護施設・保健センター・養成学校・歯科関連企業など、歯科衛生士が必要とされる職場は多岐にわたります。
「個人経営の歯科医院によくある狭い人間関係がストレス」など、歯科医院での仕事から離れたいという場合は、歯科医院以外の職場で働いてみるのがおすすめです。規模の大きい勤務先なら、歯科医院時代よりも給料が上がる可能性もあります。

歯科衛生士の資格を活かせる職場は、思っている以上に幅広いものですね。歯科医院以外の環境で働くことで、新しいやりがいや待遇面でのメリットも見つかるかもしれません。
また、認定歯科衛生士・介護福祉士・ケアマネジャーなど、歯科衛生士とのダブルライセンス保有者なら、転職活動の際のアピールポイントになり、現場でもその知識や技術を役立てられます。
6. フリーランス歯科衛生士になる
歯科衛生士の働き方には、特定の歯科医院や施設などに所属しない「フリーランス歯科衛生士」という働き方もあります。
具体的にどのような仕事をするかは、個人で自由に決められます。例えば、臨床業務のスポット勤務・歯科関連セミナーの講師・歯科関連コンサルタント・歯科コンテンツのWEBライターなど、歯科衛生士の資格を活かせる仕事はたくさんあります。
フリーランスという働き方は、一つの勤務先に縛られたくないという人にぴったりです。しかし一方で、一定の収入を超えると確定申告が必要になるなど、本業以外の作業も増えるため、自己管理力が必要です。

歯科衛生士を辞めるデメリットとは?

- 費用や時間がムダになる
- 給料が下がる場合がある
- キャリアがリセットされる
歯科衛生士を辞めたいと思っている時は、辞めた時のメリットにばかり気を取られてしまうものです。でも、辞めてから痛感するデメリットもあります。仕事を辞めようか迷っている時は、デメリットについてもしっかり考えてみましょう。
1. 費用や時間がムダになる
歯科衛生士の資格を得るには3~4年の履修期間が必要で、学費の相場は約300万円とされています。つまり、歯科衛生士を辞めるということは、これらの費用や時間がムダになってしまうことになるわけです。
また、親が学費を負担してくれた場合は、辞めたいことを言い出しにくかったり、辞めたことで関係が気まずくなる可能性もあります。
2. 給料が下がる場合がある
歯科衛生士の平均収入は、全国の女性の平均収入よりも高い傾向にあります。そのため、転職する業種によっては、給料が下がってしまう場合があります。
ちなみに、パート勤務の場合も、歯科衛生士の時給は平均より高めです。例えば、育児などを理由に歯科衛生士を辞めて、違う職種のパート勤務に就いた場合、時給の違いを痛感することがあります。
3. キャリアがリセットされる
歯科衛生士として転職すれば、これまでのキャリアが活かされます。しかし、全く違う業種に転職する場合は、どんなに歯科衛生士のキャリアが長くても、「未経験者」として扱われます。
また、転職は年齢が上がれば上がるほど、成功率が下がってしまうと言われています。「こんな仕事がしたい!」という具体的な目標があるとしても、望むような企業に採用されるとは限らないわけです。
まとめ
仕事のストレスが重なったり、体力的にきつくなったりした時は、どうしても「辞めたい」と思ってしまうもの。でも、歯科衛生士は常に世の中から必要とされる職業で、勤務先の候補もたくさんあります。勢いで辞めてしまって後悔しないよう、「辞めたい」と思った時は、まずいろいろな選択肢を考えてみて下さいね!