歯科衛生士の多くが一度は経験する「転職」。その転職理由には、女性ならではのライフスタイルの変化や、より良い労働条件で働きたいという率直な思いが込められています。
とはいえ、面接で退職理由を聞かれた時に、どこまで正直に答えていいのか悩む人も多いはず。そこでこの記事では、歯科衛生士に多い転職理由や、面接で聞かれた時の回答例文などをご紹介します!

d latte編集部 かおり
歯科衛生士歴9年。インプラント治療を専門とするクリニックで、術前術後のメンテナンスを担当。患者さんの長期的な口腔健康維持をサポートしている。セミナーや勉強会への参加も積極的で、常に新しい知識と技術の習得に努めている。同僚との情報共有を大切にし、チーム医療の向上に貢献している。
転職経験がある歯科衛生士は約8割!

歯科衛生士の転職経験の回数 | |
1回 | 21.8% |
2回 | 19.6% |
3回 | 17.1% |
4回以上 | 22.3% |
参考:日本歯科衛生士会「令和7年歯科衛生士の勤務実態調査報告書」
日本歯科衛生士会が実施した歯科衛生士の勤務実態調査によると、「勤務先の変更を経験したことがある」と答えた歯科衛生士は、全体の約8割にも及ぶことが明らかになっています。
さらに、転職の回数を調査したところ、最も高い割合を占めたのは「4回以上」と答えた22.3%の人たちでした。また、それ以外の回数に関しても、すべて20%前後の割合を占めていることが分かります。つまり、大半の歯科衛生士が1回以上の転職を経験しているということになるわけです。
歯科衛生士の転職理由で多いのは?

上記のランキングは「令和7年歯科衛生士の勤務実態調査報告書」において、転職を経験したことがある歯科衛生士にその理由を尋ねたものです。
転職理由として挙げられたのは、働く女性特有の事情や職業全体に共通する不満など様々です。一つ一つ見ていきましょう。
1. 出産・育児
歯科衛生士の転職理由で最も多かったのは「出産・育児」でした。全体では33.8%、常勤の人では27.5%、そして非常勤の人は最も高い42.0%を占めています。
歯科衛生士の男女比は女性が99%となっており、女性が圧倒的に多い職業です。そのため、出産や育児を理由に勤務スタイルを変えたいと望む人が多く、今の職場でそれが叶わない場合、転職を選ばざるを得ないのだと考えられます。
例えば、少人数の歯科衛生士しかいない歯科医院の中には、産休や育休を取りづらいところもあります。また、仮に産休・育休を取得して復帰したとしても、子供の急病などの際に交代できる人がいないという問題があります。
このような働きづらさを解消するために、歯科衛生士の人数が多い歯科医院や、子育て支援に力を入れている歯科医院に転職する人もいるわけです。

出産・育児を機に転職を考える背景には、ただ働き続けたいという想いと、子どもとの時間も大切にしたいという気持ちの間で揺れ動く心境があるのでしょう。理解のある職場環境を求めることは、決して贅沢ではなく自然な願いですね。
2. 院長・経営者との人間関係
歯科衛生士の転職理由で2番目に多かったのは「経営者との人間関係」です。選んだのは全体の33.2%にあたる人で、最も多い「出産・育児」とほぼ同じ割合でした。
歯科医院の場合、経営者は院長にあたるため、院長との関係に悩む人が多いということになります。現役歯科衛生士の体験談でも、「言い方がきつい」「後輩のミスを指導の仕方のせいにされる」「患者さんの治療方針についてきちんと説明してくれない」など、様々な意見がありました。
院長との関係性は、ある程度働き続けなければ見極められないことが多いため、必ずしも転職で解決するとは言い切れません。しかし、転職前に医院見学をさせてもらえば、職場の雰囲気を自分で確認することはできます。

院長との人間関係は、毎日の診療の質や働きがいに直結する重要な要素だといえるでしょう。相性や価値観の違いは誰にでも起こりうることですが、お互いを尊重し合える関係性を築ける医院との出会いを大切にしていきたいものです。
3. 結婚
女性が多い職業ならではと言えるのが、「結婚」という転職理由です。結婚を機に転職した歯科衛生士は32.4%で、特に非常勤では40.3%の人が当てはまる結果となりました。
結婚のタイミングで転職するケースとしては、「引っ越して勤務先が遠くなった」「短時間勤務に切り替えたい」「将来のために、子育て中でも働きやすい職場を選びたい」といった理由が挙げられます。
歯科衛生士の場合、家庭との両立に限界を感じて離職してしまう人も少なくないため、結婚後の働き方については、なるべく早い段階からイメージしておいた方がよいと言えます。

結婚というライフイベントは、これまでの働き方を見つめ直す大切な機会でもあるのでしょう。パートナーとの新しい生活を築きながら、歯科衛生士としてのキャリアも継続していくバランスを模索する過程は、多くの方が通る道なのかもしれません。
4. 給与・待遇の面
歯科衛生士で転職理由について「給与・待遇の面」と答えたのは、32.3%の人でした。特に常勤の人の場合は全体の37.6%で、転職理由の中で最も高い割合となっています。つまり、非常勤の人よりも常勤の人の方が、給与・待遇に対する不満が多いということになります。
給与・待遇の面とは、具体的に「給料が安い」「給料が上がらない」「ボーナスが少ない」「福利厚生が充実していない」などが挙げられます。特に仕事量が多い職場や、土日出勤がある職場などは、業務の大変さに対して給与額が見合っていないと思われがちです。

給与・待遇への不満は、専門技術や責任の重さに対する正当な評価を求める気持ちの表れなのでしょう。常勤として医院を支える責任感やプレッシャーを感じながら働いているからこそ、それに見合った待遇への期待も高まるのは自然なことですね!
5. 勤務形態・勤務時間
「勤務形態・勤務時間」を転職理由として選んだのは、常勤・非常勤合わせて31.8%の人たちでした。勤務形態とは、働く時間帯や曜日などを指す言葉です。歯科医院の場合は、1日や1週間の勤務時間が決まっている「固定時間制」がほとんどですが、中には長時間労働が常態化しているケースもあります。
また、歯科医院は土曜日も診察しているところが多く、勤務先によっては日曜日や祝日も診察していることがあります。土日・祝日に仕事があると、家族や友人と休みを合わせにくいことがストレスになります。そのため、転職を決断する人がいるのだと考えられます。

勤務時間や休日の調整は、プライベートや家族との時間を大切にしたい気持ちの表れだといえるでしょう。土日診療が多い歯科医院の特性を理解しながらも、自分らしい働き方を見つけていくことは、長く続けていくために必要な選択なのかもしれません。
6. 仕事内容
転職理由を「仕事内容」と答えたのは、29.6%の歯科衛生士でした。歯科衛生士の仕事は主に「歯科予防処置・歯科保健指導・歯科診療補助」の3つの業務です。具体的には、患者さんの口腔ケアや歯磨き指導、歯科医師の治療の補助などが挙げられます。
仕事内容に対する不満は、職場の環境や個人のモチベーションなどによってそれぞれ異なります。例えば、仕事量が多すぎることを不満に思う人もいれば、もっといろいろな業務を担いたいと望む人もいるため、転職理由も様々なケースに分かれるわけです。
また、歯科衛生士の勤務先は一般歯科だけでなく、訪問歯科・病院・介護施設・歯科衛生士養成機関など、多岐にわたります。仕事内容は勤務先の種類によっても大きく異なるため、違うタイプの勤務先に転職する人もいます。

仕事内容への想いは、歯科衛生士としての専門性をどう活かしていきたいかという個人の価値観に深く関わっているのでしょう。予防処置や保健指導、診療補助といった業務の中で、自分が最もやりがいを感じる分野を見つけていく過程も大切な成長の一部ですね。
7. 仕事内容のレベルアップのため
歯科衛生士の転職理由の上位7つの中で、明確に前向きな意味として捉えられるのが「仕事内容のレベルアップのため」という理由です。この答えを選んだのは全体の25.7%の人で、常勤の人の場合は32.9%と、非常勤の人の18.4%に比べてかなり高い割合となりました。
仕事内容のレベルアップを目的とした転職は、これまで以上に知識や技術の高さを求められることになります。また、資格を取得していることが有利に働くケースが多いため、転職を始める前に資格を取る人もいます。目標が具体的であればあるほど、面接時に熱意が伝わりやすいのがメリットです。

レベルアップを目指して転職する姿勢は、歯科衛生士としてのプロ意識と向上心の表れだといえるでしょう。新しい技術や知識を身につけたいという想いは、より質の高い口腔ケアを患者様に提供したいという気持ちから生まれるのかもしれませんね。
常勤全体の転職理由
- 経営者との人間関係: 31.5%
- 給与・待遇の面: 29.2%
- 仕事内容: 26.4%
- 勤務形態・勤務時間: 23.1%
- 出産・育児: 21.1%
- 結婚: 20.9%
非常勤全体の転職理由
- 給与・待遇の面: 36.8%
- 結婚: 37.5%
- 経営者との人間関係: 26.6%
- 仕事内容: 16.0%
- 出産・育児: 15.3%

面接での退職理由の伝え方!

- 前の職場の不満は言わない
- 改善する努力をしたか伝える
- 退職理由と志望動機を関連付ける
面接時に退職理由を聞かれるのは、同じ理由で辞めてしまう可能性がないか確認したり、問題が発生した時にどれだけアクションを起こせる人か見極めたりするためです。
できるだけポジティブな理由として受け止めてもらえるよう、3つのポイントを心がけましょう。
1. 前の職場の不満は言わない
仮に自分に非がないことであっても、前の職場に対する不満ばかりを述べるのはNGです。例えば、「院長の態度がきつかった」という理由だけでは、主観的で説得力に欠けます。
また、「給料が安かった」という理由ばかりを強調すると、「給料が良ければどこでもいい」という意味合いに捉えられかねません。本音は給料を最優先させたいとしても、面接ではあえて言わないでおくという選択肢もあります。
2. 改善する努力をしたか伝える
面接官が知りたいのは退職理由だけでなく、その問題を改善するために何か行動を起こしたかという点も含まれます。仮に転職先で同じようなことがあった際に、その人がどのように対処するかの判断材料になるからです。
例えば、院長との人間関係が良くなかった場合、「ミーティングを提案したが、受け入れてもらえなかった」といったアクションがあれば、退職理由に説得力が生まれます。
また、「仕事量が多すぎる」「労働時間が長すぎる」などの理由なら、「人員増加を要望したが、実現されなかった」「業務の効率化を試みたが、それだけではカバーしきれなかった」などのアクションがあれば、面接官に納得してもらいやすくなります。

3. 退職理由と志望動機を関連付ける
面接では「転職先でどのような働き方をしたいか」を明確に伝えることも重要です。ポイントとしては、まず退職理由を具体的に述べること、そしてそれと関連付けながら志望動機を述べるとスムーズです。
例えば、前の職場に対して「日曜・祝日も休めない」「仕事量が多すぎる」などの不満があり、転職を希望する歯科医院が「土日休みで残業もほぼなし」に加え、「院内で研修会や講習会を開いている」といった特徴がある場合で考えてみましょう。
土日が休みで労働時間もきちんと管理されていれば、転職後は時間に余裕が生まれます。さらに、転職希望先では研修や講習も受けられるため、「時間を有効活用してスキルアップに励みたい」という志望動機をアピールできます。
このように、退職理由と志望動機をうまく関連付ければ、転職がポジティブな選択であると伝えることができるわけです。

退職理由の例文とポイント

退職理由にはネガティブな内容も多いものですが、面接で愚痴や不満ばかりを述べるのはNGです。ポイントは「なるべくポジティブな表現に置き換えること」。その例文をいくつかご紹介しましょう。
1. 育児との両立が難しい
「現在の職場は診療時間が19時までで、日曜日に出勤することもあります。夫と協力して育児を行っていますが、仕事との両立を難しく感じることが多いため、退職を決意しました。貴院は育児中の方が何人も在籍されており、サポート体制が整っていることに大変魅力を感じます。先輩方をお手本として、長く活躍できる歯科衛生士を目指したいと思っています。」
仕事と育児を両立するための転職であれば、なぜ前職の職場ではそれが困難であったかを具体的に説明することがポイントです。例えば、転職希望先の診療時間が18時までで、土日を休日としているなら、「労働時間が長く、日曜日の出勤があった」という事実は、退職理由として納得できるものになります。
また、育児中の人を採用する際に面接官が心配するのは、すぐに辞めてしまわないかという点です。そのため、長く働き続けたいという意思があることも、面接時の大切なアピールポイントになります。
2. 院長との人間関係
「前職の歯科医院では、患者様の受け持ちが担当制ではなく、院長の治療方針に関しても把握できない部分がありました。また、一人の患者様に費やす時間が短かったため、患者様と院長との橋渡し役を十分に担えていないと感じていました。患者様専任の歯科衛生士として、最後まで責任を持ってサポートしたいと思い、担当制の治療を行っている貴院に応募しました。」
院長との人間関係が退職理由の場合、気をつけたいのは「主観的な不満を述べないこと」です。たとえ院長が横暴な人だったとしても、面接官はその事実を確認することができません。そのため、「不満に思うとすぐ辞めてしまうかも」と思われる可能性があります。
このような場合は、院長とのコミュニケーション不足によって生じた問題について述べるようにしましょう。例えば、院長が情報共有をしてれない、あるいは話を聞いてくれない人であったなら、「患者さんを十分にサポートできなかった」といった表現に変換できます。
3. 仕事量が多い
「現在の職場は一日に来院される患者様の数が多く、様々な症状に対応した治療を行っていることが強みですが、残念ながら患者様とじっくり向き合う時間の余裕がありません。業務内容の見直しなどを行いましたが、思うように改善できなかったため、一人一人の患者様の施術時間を長めに設け、担当制を取り入れている貴院で働きたいと思い、退職を決意しました。」
「仕事量が多い」という不満を面接時にうまく伝えるには、「どのような働き方を理想としているか」という観点で述べることがおすすめです。上記の退職理由の場合は「時間に余裕を持って、一人一人の患者さんと向き合いたい」という前向きな気持ちに置き換えています。
面接官が一番知りたいのは、転職先での仕事に対する抱負や目標です。「前職でできなかったことを転職先で実現したい」という気持ちをしっかり伝えるようにしましょう。
4. 給料が安い
「現在勤めている歯科医院は保険診療が中心で、自費診療の種類が豊富ではありません。しかし、患者様の口腔内の状態によっては自費診療をお勧めしたい場合もあり、もどかしさを感じることがありました。また、以前よりホワイトニングのスキルを磨きたいと考えておりましたので、自費診療を積極的に行っている貴院に応募しました。」
給料が安いことが一番の退職理由だとしても、それを面接でそのまま伝える必要はありません。なぜなら、仕事内容ではなく、給料の高さだけで職場を選んでいるように思われかねないからです。このような場合は、給料の差による仕事内容の違いに着目してみましょう。
上記の例文は、保険診療がメインの歯科医院から、自費診療が多い歯科医院に転職を希望する場合の例文です。歯科医院は自費診療の方が利益を多く得られるため、給料にも還元されやすいのが特徴です。そのため、自費診療を行うことに対する意気込みを述べれば、良い意味での退職理由だと受け取ってもらえるはずです。

5. スキルアップしたい
「私の目標は、日本歯周病学会の認定歯科衛生士の資格を取得することです。しかし、現在の勤務先の歯科医院では実務経験を積むことが難しく、研修に参加する時間もなかなか取れません。そのため、資格取得支援制度を実施している貴院において資格の取得を目指し、歯周病の認定歯科衛生士として患者様のお役に立ちたいと思っています。」
退職理由の中で最もポジティブに受け止めてもらえるのが、スキルアップを目的とした転職です。「具体的な目標があり、現在の職場ではそれを叶えるのが困難である」ということが伝われば、前向きな転職として理解してもらえます。
ただし、単純に自分の夢や目標を語るのではなく、転職先でどのように役に立てるのかをアピールすることも大切です。特に歯科関連の資格取得者は即戦力として働けるため、面接でも好印象を得られます。
面接が不安な時の3つの対処法

- 医院見学で気になる点を確認する
- よくある質問に対する答えを考えておく
- 手厚いサービスの転職サイトを利用する
歯科衛生士は長年にわたり売り手市場と言われており、転職でも採用されやすいのが特徴です。とはいえ、いざ面接となるとやはり不安なことも多いですよね。そこでここでは、面接に備えて準備できることをご紹介しましょう。
1. 医院見学で気になる点を確認する
歯科衛生士の転職活動では、事前に医院見学をさせてもらうのが一般的です。医院見学では、院長やスタッフの雰囲気・院内設備・業務内容などを実際に確認できます。また、労働条件について気になることも、具体的に教えてもらうとよいでしょう。
医院見学と面接を同じ日に行うこともできますが、一度熟考したい場合や、他の歯科医院と比較したい場合などは、日を改めて面接してもらうことがおすすめです。
2. よくある質問に対する答えを考えておく
面接で聞かれることが多い質問
- 自己紹介
- 長所と短所
- 志望動機
- 転職理由
- 仕事をする時に心がけていること
- 治療に非協力的な患者に対する接し方
面接では一般的によく聞かれる質問の他に、歯科衛生士という職業ならではの質問もされることがあります。よくあるのは、「仕事をする際に心がけていることは何ですか?」という質問や、「治療に協力的ではない患者さんにどのように接しますか?」といった質問などです。
面接官が知りたいのは、その人の仕事に対する考え方や行動力です。実際に過去に経験した事例などもアピールポイントになるので、面接前にメモにまとめておくとよいでしょう。
3. 手厚いサービスの転職サイトを利用する
歯科衛生士の求人を扱う転職サイトはいろいろありますが、面接が不安な人には専任のアドバイザーやコンサルタントがサポートしてくれる転職サイトがおすすめです。
歯科衛生士の転職について熟知したアドバイザーやコンサルタントは、数多くある求人情報の中からおすすめの求人を厳選してくれたり、面接に対するアドバイスなどをしてくれます。また、サイトによっては労働条件の交渉などもお願いできるので、面接で緊張してしまう人でも安心して転職活動を行えます。
まとめ
歯科衛生士の約8割は転職を経験しており、転職を決意した理由も様々です。「人間関係が辛い」「給料が安い」など、ネガティブな理由で転職する人も多いかもしれませんが、「より良い働き方を模索するため」と考えれば大丈夫!多くの歯科衛生士さんたちが通る道なので、前向きな気持ちで転職活動に励んでくださいね。